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BROADWAY IS BACK! 第4回 コロナ感染対策編 オミクロン株の猛威で公演キャンセル続出中
- 2021/12/25
- OUTLINE/REPORT
第4回 コロナ感染対策編 オミクロン株の猛威で公演キャンセル続出中
12月21日、アメリカ疾病対策センター(CDC)が、前週(12月12日~18日)の推計で、新型コロナウイルス国内新規感染者の73.2%が、オミクロン株になったと発表した。前々週(5~11日)の12.6%から約6倍という、驚愕のスピードと増加率だ。ニューヨークにおいては、すでに90%以上がオミクロン株に置き換わっているとのことで、それを裏付けるように、12月22日のニューヨーク州の新規感染者数は、過去最多を大幅に更新する3万8000人超。ブロードウェイの公演中止ラッシュは、この感染状況を如実に反映していると言えるだろう。12月23日の公演中止作品は、以下の通り(:の後の日付は公演中止期間)。※→は2021/12/27現在の再開日変更
①エイント・トゥー・プラウド(Ain’t Too Proud):12/20-12/27
②アラジン(Aladdin):12/19-12/24 (12/26から再開予定)→12/29に再開予定
③アメリカン・ユートピア(David Byrne’s American Utopia):12/22-12/23(12/26から再開予定)→12/28に再開予定
④カム・フロム・アウェイ(Come From Away): 12/21-12/25 (12/26から再開予定)
⑤ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen):12/20-12/26 (12/27から再開予定)
⑥ヘイディーズタウン(Hadestown):12/17-12/26 (12/28から再開予定)
⑦ハミルトン(Hamilton):12/15-12/26(12/27から再開予定)→12/28に再開予定
⑧ハリー・ポッターと呪いの子(Harry Potter and the Cursed Child):12/18-12/27 (12/28から再開予定)
⑨ジャッグド・リトル・ピル(Jagged Little Pill):12/16 (12/17から再開、12/18中止のまま終了)
⑩ライオン・キング(The Lion King):12/21-12/26 (12/27から再開予定)→12/28に再開予定
⑪MJ:12/16-12/28(12/29から再開予定)
⑫ムーラン・ルージュ!(Moulin Rouge):12/23-12/25(12/26から再開)
⑬シックス(SIX):12/20-12/28 (12/29から再開予定)
⑭ソウツ・オブ・ア・カラード・マン(Thoughts of a Colored Man):12/22を最終公演として終了
⑮ティナ(Tina):12/15-12/24(12/25再開予定)→12/27に再開予定
⑯ウェイトレス(Waitress):12/21中止のまま終了
開幕していた32作品のうち16作品が、関係者の新型コロナウイルス感染を理由とした公演中止に追い込まれている。なかには新作ストレートプレイ⑭のように、コロナによる休演1名に加え、病欠者が2名出て、待機していた2名の代役では足りず、この作品を書いた劇作家キーナン・スコットⅡが急遽出演を買って出て公演中止を回避した、などという離れ業も現れた。が、この原稿を書いている間に、来年3月まで上演予定だったこの作品が、12月22日の公演を最終回として終了したという唐突なニュースが入った。⑨⑯のように、公演中止の後再開せずに終了を決めた作品もある。ロングランが前提で、通常でも主要な役には交代要員が数人ずついるブロードウイのシステムを以てしても、オミクロン株の感染力に対応するのは至難の業と言えそうだ。
これだけ公演中止が多くなるのは、ブロードウェイが徹底した防疫対策を取っていることの証左でもある。観客に対しては、ワクチン接種完了証明か陰性証明の提示と、劇場内でのマスク着用が基本。9月に訪れた際の経験では、観客は劇場入場前に、身分証明書とワクチン接種/陰性証明書を並べてスタッフに提示し、チェックを受ける。接種したワクチンの製薬会社まで確認する人から、適当にOKを出しているようにしか見えない人まで、スタッフの対応には個人差があったけれど、一応海外からの来訪者については、WHOかFDA(アメリカ食品医薬品局)が承認したワクチンを2回接種済みであることが条件となっている。
『アメリカン・ユートピア』を上演中のセント・ジェームズ劇場の各種証明チェックの様子
ニューヨークは屋外ではマスク着用義務がないせいだろうか、劇場入口には不織布マスクも常備(ジュジャミソン・シアターズ運営の劇場の場合。他は未確認)。
日本の劇場が行っている観客の検温や靴底消毒マットはないが、手指用の消毒液は、劇場内に数か所設置されている。場内係は着席した観客のマスク・チェックも周到に行っており、バンダナをマスク代わりにしている観客に、不織布マスクを渡して付け替えを指示する光景を目にしたこともあった。日本とはマスクに対する抵抗感が相当異なるはずのニューヨークが、ここまで厳しく防疫に努めている様子は、ちょっと意外なほどだった。日本のように観客どうしの会話や歓声を抑制したりはしないので、観客はみな、いままで通り自由に反応し、歓声を飛ばしながら舞台を楽しんでいるが、演者と観客の距離は最低6フィート(約1.8メートル)空けることが義務づけられており、楽屋への来訪や、楽屋口での出待ちも禁止。キャストは求められても、サインに応じてはならない。
劇場ロビーに設置されている消毒液
キャストやスタッフの感染対策も、非常に厳格だ。換気、清掃、消毒、人との距離、PCRおよび抗原検査の回数、着用するマスクの種類など、俳優組合が作成した詳細なプロトコルに基づき、作品ごとにガイドラインが決められている。ユニークなのは、こうしたコロナ感染対策を担う専門スタッフ「コロナ安全管理者」( COVID-19 SAFETY MANAGERあるいはCOVID-19 COMPLIANCE MANAGERとも)の雇用が義務づけられている点。劇場においても稽古場においても、最低1名のトレーニングを受けたコロナ安全管理者が必要で、制作や劇場スタッフ、俳優など、作品の関係者がこれを兼任することは許されない。
来年5月にセントルイスで開幕予定の宮本亞門演出『カラテキッド』のニューヨークの稽古場を訪ねた際にも、消毒液を手にしたコロナ安全管理者の男性が1名、現場に常駐していた。稽古場およびスタッフやキャストの防疫状況を監督し、指導や相談に応じ、スタッフやキャストが、コロナ感染予防対策において負担を強いられることがないよう、細心の注意を払うのが仕事だ。業界ににわかに誕生したこの「コロナ安全管理者」について知りたいと取材を申し込んだが、個人的にも組合としても、まだ取材に応じられる状況にはないとの理由で断られた。試行錯誤の渦中にある職掌であることは、想像に難くない。
18か月ぶりに再開したブロードウェイで、最初に関係者のコロナ感染を理由とする公演中止を出したのは、9月28日に開幕した『アラジン』だった。翌29日の公演を中止し、30日に再開したが、また感染者が出たため10月1日から10日間公演を中止し、12日に再開した。混乱気味のキャンセル騒動となったが、プロデューサーのディズニー・シアトリカルは、あくまでも徹底した感染対策が招いた結果であることを主張した。俳優組合が定めた、キャスト・スタッフ週3回の検査と最低1名のコロナ安全管理者の起用義務に対し、『アラジン』では検査は毎日行い、フルタイムのコロナ安全管理者を6名置いているというのだ。(’Aladdin’ returns to Broadway after COVID-19 outbreak)
当時のニューヨークの新規感染者数は、現在の約10分の1。いまは上演中のほとんどの作品が、毎日検査を行っているという。再開当初とは比較にならないオミクロン株の猛威に、ブロードウェイはどこまでもち堪えることができるだろう。とても心が痛むクリスマスとなってしまった。(ND)