- Home
- OUTLINE/REPORT
- BROADWAY IS BACK! 第3回 ボックスオフィス編 ブロードウェイにデジタル・チケット時代到来!?
BROADWAY IS BACK! 第3回 ボックスオフィス編 ブロードウェイにデジタル・チケット時代到来!?
- 2021/12/4
- OUTLINE/REPORT
2021年9月後半から10月初頭、ブロードウェイが18か月ぶりに再開した直後のニューヨークに行ってきました。出入国、チケット購入、劇場の対応など、ウイズ・コロナ時代に入って初めて体験したことを書き留めておきます。事実誤認がありましたら、ぜひご指摘ください。(ND)
第3回 ボックスオフィス編:ブロードウェイにデジタル・チケット時代到来!?
これは、あくまでも個人的な成功体験に基づく経験則なのだが、TKTS(当日および翌日マチネ対象の公式割引チケット売場)には出ないが、TodayTixなどの割引チケット・アプリには出ているような作品は、直接劇場のボックスオフィスに行った方が、アプリより好条件の席を確保できることが多い(もちろんうまくいく時といかない時があり、基本的には時の運だと思う)。
今回の滞在でこの条件に当てはまったのは、2019年度のトニー賞ミュージカル作品賞受賞作『ヘイディーズタウン』と、2020年度の同受賞作『ムーラン・ルージュ!』。『ヘイディーズタウン』は、TodayTixだと希望日の最安値が確か$149くらい(日によってかなり異なる)だったので、ボックスオフィスに行き「今夜1枚ありますか?」と尋ねると「〝条件に合えば〟1階最前列の下手角席が$99で買える」と言われた。見切れを了承することが条件なのだろうと思いきや、問われたのは身長。この作品は、弧を描く張り出し舞台で、客席最前列との距離がかなり狭いため、大柄な人は不可ということらしい。無事、条件をクリアして、かぶり付きを手数料込み(以下同)$99でゲット。しめしめと思ったが、この後に、未知の脂汗体験が待っていた。
『ヘイディーズタウン』を上演中のウォルター・カー劇場は、チケットを全面的にデジタル化したようで、ボックスオフィスの窓口で直接やり取りする購買者にも、その場でインターネット登録をさせ、モバイル・チケットを送信するシステムになっていたのだ。以下、座席決定後の発券手順。
①劇場運営会社ジュジャミソン・シアターズのWEBサイトで名前、メールアドレス、電話番号を登録(電話番号は記入しなかったがOKだった)。
②同社から、チケット販売会社シートギークとコネクトせよとのメールがくるので、メールに表示されたコネクト・ボタンをクリック。シートギークのサイトに飛んだら、自分のアカウントを作成する。
③ そこに再び現れるコネクト・ボタンをクリックすると、自分のアカウントに購入したモバイル・チケットが表示されると同時に、確認メールが届く。
この一連の作業を、窓口で指導してもらいながらひとしきり行わなければならず、途中wifiの調子が悪くなって時間がやたらとかかったり、後ろに並ぶ人のことが気になったりして、かなり戸惑い、消耗した。
↑アル・フィルシュフェルト劇場のボックスオフィス。窓口でチケットを購入しても手渡されるのは領収書だけ
『ムーラン・ルージュ!』のアル・ヒルシュフェルト劇場も、ジュジャミソン・シアターズ系なので同じシステム。直接ボックスオフィスに行って対面で購入しても、チケットはもらえずメールを待つだけ、というのがどうも心許ないのだが、『ヘイディーズタウン』でアプリなど諸々のモバイル登録は済んでいたので、手続き自体はスムースだった。トニー賞の結果が出る前だったこともあり、授賞式後の初公演日、1階前方中央の良席を$159で購入した。
↑アプリに表示された『ムーラン・ルージュ!』のデジタル・チケット
一方、同じジュジャミソン・シアターズ系でも、今回何度も通った『アメリカン・ユートピア』のセント・ジェームズ劇場では、ボックスオフィスでの購入手続きは前2劇場と同じながら、チケットは従来通りの紙券発行だった(確認メールも届いた)。チケッティング・システムは共通していても、そこから先の対応は各劇場に任されているのかと思い、ジュジャミソン・シアターズに確認したところ、「弊社のチケットはすべてモバイル対応で、シートギーク社のアプリで表示されます。万一アプリにアクセスできない際は、劇場に問い合わせてください。場合によっては、劇場がチケットを印刷してお渡しします」との返答。セント・ジェームズ劇場のボックスオフィスが紙チケットを手渡してくれたのは、窓口の滞留回避のための非常措置か何かだったのだろうか。
では整理しよう。ブロードウェイで5劇場を運営するジュジャミソン・シアターズは、今年度からチケットを完全デジタル化した。よって、同社系列の劇場で上演中または上演予定の5作品
『ヘイディーズタウン』(ウォルター・カー劇場)
『ムーラン・ルージュ!』(アル・ヒルシュフェルト劇場)
『アメリカン・ユートピア』(セント・ジェームズ劇場)
『ブック・オブ・モルモン』(ユージン・オニール劇場)
『ファニー・ガール』(オーガスト・ウイルソン劇場で2022/3/26開幕予定)
を観るには、TKTSブースでの購入以外はスマートフォンやタブレットなどモバイル機器が必携。例外的に紙チケットを発券してもらえる場合にも、Eメールアドレスの登録は必須、ということになる。「ブロードウェイの観客には、スマホもPCも所持せず、メアドも無い人なんていない」というのが、ジュジャミソンの前提なのだろう。デジタル超後進国から来た人間には、かなり思い切った変革に感じられるし、現場もちょっと混乱しているようだけれども……。
ジュジャミソン・シアターズとシートギークについて
ジュジャミソン・シアターズは、シューバート・オーガニゼーション、ネダーランダー・オーガニゼーションと並ぶブロードウェイの3大劇場オーナー社で、上記のようにオン・ブロードウェイに5劇場を所有している。2021年1月末、提携するチケット販売会社をチケットマスターから、デジタル・チケット形態でスポーツ・イベントに多くのシェアを持つシートギークに乗り換えたことは当コロナ・カレンダー(2021/1/29)にも記載済み。今回、改めてその際のプレスリリースをチェックしてみたら、ペーパーレスなだけでなく、あらゆるサービスを付随させた次世代のチケッティング・システムをブロードウェイに初導入する、という威勢のいい文言が書かれていた。ひとたびチケットを購入すれば、劇場内でのドリンク類の注文、交通手段の手配、グッズ購入、チケットの転売、関連情報の提供などが可能となり、各顧客本位にカスタマイズされた、最高のモバイル・チケット体験がもたらされるのだそうだ。
そんな付加価値があったのか!と、改めてアプリ内のチケットをチェックしてみたが、現状ではそれらの付帯サービスは提供されていない。10月末にシートギークに問い合わてもらったところでは、いつから実施するのかも、どんなサービスを提供するのかも未定とのこと。現状は、まだ絵に描いた餅のようだ。ただ、上記5劇場のチケットが、基本ペーパーレスになったことだけは事実。将来的にはTKTSや他の劇場オーナーも、デジタル・チケットに移行するかもしれない。馴れていたつもりのTKTS(第2回参照)やボックスオフィスでドギマギ体験が続いて非常に疲れたけれど、再開直後かつ変革のまっただ中にあるブロードウェイにいる臨場感は、十分に味わえた気がする。(ND)