2020年夏、イングランドで待ちに待った劇場再開、のはずが…… 

OUTLINE【2020.07.11~2020.08.15】

 

イングランドで屋外でのパフォーマンスがソーシャル・ディスタンシング(対人距離を取る戦略)のルール付きで解禁されたのは2020年7月11日のこと。パブの庭に新設された小さな野外劇場から、瀟洒なオペラ・ハウスであるグラインドボーンの庭まで、様々な場所で様々な規模のパフォーマンスが行われた。ロンドン中心部にあるリージェンツ・パーク野外劇場では、8月14日からミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』のコンサート版が上演。劇場側は席を確保できなかった人たちのために同劇場の敷地内にスクリーンも設置し、待ち望んだ劇場再開の喜びをファンたちと分かち合った。

屋内でのパフォーマンスは8月1日から可能になるはずだったが、新型コロナウイルスの感染者増により同15日にずれ込んだ。延期発表は何と再開予定日前日の7月31日。ロンドン中心部にある老舗小劇場、ドンマー・ウェアハウスの『白の闇(Blindness)』は、観客がヘッドフォンを装着して録音音声を聴くサウンド・インスタレーションであり、俳優による生のパフォーマンスではないという理由で、予定通り8月1日から“上演”することができた。なお、ジョゼ・サラマーゴの同名小説をサイモン・スティーヴンスが脚色、ジュリエット・スティーヴンソンが声の出演をした同プロダクションは、2021年4月2日から米NYのダリル・ロス劇場でも上演される。まだ状況が読めないなか、劇場再開の第一歩としては適していると言えるだろう。

劇場再開に際して、劇場側は政府のガイダンスに則って収容人数を大幅に減らさねばならず、一部客席を取り払うなどの対策に追われた。また、制作や上演の過程においても舞台上を含め、可能な限りソーシャル・ディスタンシングなどのルールを順守する必要があったため、再開後しばらくは一人芝居やごく少人数の出演者で成り立つプロダクションを上演するか、チームが共同隔離生活を送ることで通常通りのパフォーマンスを実現するというケースが多くみられた。

8月、ナショナル・シアターの前芸術監督、ニコラス・ハイトナー率いるブリッジ劇場は、モノローグ公演からなるシーズンを開幕した。大御所劇作家のデヴィッド・ヘアが新型コロナウイルスに感染した自身の体験に基づき執筆した一人芝居『ビート・ザ・デヴィル(Beat The Devil)』をレイフ・ファインズ出演で上演。そのほか、BBCで放送されたアラン・ベネットのモノローグ・ドラマ・シリーズ『トーキング・ヘッズ(Talking Heads)』リメイク版の舞台化などが行われた。

映画『めぐり逢えたら』を基にした新作ミュージカル『スリープレス:ア・ミュージカル・ロマンス(Sleepless: A Musical Romance)』は、徹底した感染防止対策を講じて8月末からトルバドール・ウェンブリー・パーク劇場での公演を敢行。新型コロナウイルスの検査を毎日実施することに加え、キャストを2つのグループに分けてグループ間の接触を回避するなどして大規模ミュージカルの上演を成功させた。

観客を入れつつ配信も同時に行う劇場やカンパニーも散見された。少しでも多くの観客に芝居を届けたいという思いとともに、収容人数制限による損失をカバーするという意味合いもあっただろう。グローブ座(シェイクスピアズ・グローブ劇場)の前芸術監督でシアター・カンパニーのワイズ・チルドレンを率いるエマ・ライスは9月、過去に自身が手掛けて好評を博したミュージカル『匿名レンアイ相談所(Romantics Anonymous)』をイングランド南西部のブリストルにある劇場、ブリストル・オールド・ヴィックで上演しつつ、世界に向けて生配信を行った。同プロダクションではリハーサルが始まる前に参加者が全員、新型コロナウイルスの検査を受けて陰性を確認。その後、“バブル”という安全圏を形成してその中で共同隔離生活を送り、出演者間の距離を気にすることなくパフォーマンスを行うことが可能になった。(SM)

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