収容人数を減らした公演、またはマスク着用の公演を (LONDON)

OUTLINE【2022.05.02】

 
マスクなしで街を歩き、食事やショッピングに興じる人々の姿。最近、日本のテレビが報じる英国の様子を観ると、もはやコロナ禍は終息したかのように感じられる。イングランドでは2月下旬に新型コロナウイルス対策の規制が全廃された。1日当たりの新規感染者数が20万人超えを記録した1月初めに比べ、4月26日の時点では同1万7000人弱。確かに減少傾向にあるが、まだ安心できる状況とは言い難い。あくまで英政府の言うところの「コロナと共に生きる」段階だ。

それでは現在、ロンドンの劇場はどのようになっているのだろうか。諸々の規制が撤廃された今、劇場でワクチン接種証明や陰性証明を求められることはない(プレイハウス劇場の『キャバレー』や、ピカデリー劇場の『ムーランルージュ! ザ・ミュージカル』のカンカン席など、一部のプロダクションではチェックあり)。大多数の劇場ではマスク着用を推奨してはいるが義務ではないため、さまざまな劇場を訪れた人たちの話を総合すると、ウエストエンドの商業劇場から小劇場に至るまで、マスクを着けている人は、もはや少数派となっているようだ。

そんななか、4月10日にロイヤル・アルバート・ホールで開催された英演劇賞、ローレンス・オリヴィエ賞授賞式の舞台裏で俳優のリズ・カーが行った発言が演劇界で注目を集めた。ナショナル・シアターで2021年の9月から11月にかけて上演された『ノーマル・ハート』で医師のエマ・ブルックナー役を演じ、プレイ部門の助演女優賞を獲得したカーは、先天性多発性関節拘縮症を持ち、車いすを使用している。カーは感染リスクの高い人など、健康問題に不安を抱える人たちも安心して観劇できるように、観客同士の距離を空けたマスク着用の公演を設けてはどうかと提案した。

下記の記事によると、カーはここ2年以上、劇場を(観劇目的で)訪れておらず、マスク着用の義務が解除された後というタイミングで開催された授賞式に出席することについて「私にとっては恐ろしい夜」と表現。『ノーマル・ハート』に出演した際には「すべてのキャストが毎日、検査をしていた」として、観客として劇場へ芝居を観に行くよりも出演する方がより安心できると語った。

現在、通常の公演とは別に収容人数を減らした公演を設けている劇場は極めて少ない。ウエストエンドにある大規模な商業劇場は収容率100%となっており、オフ・ウエストエンドの中小劇場でも、ヤング・ヴィック劇場がいくつかの公演を“Socially Distanced Performance(社会的距離を確保したパフォーマンス)”としているのが目を引くくらいだ。

収容人数を減らせば劇場側の収入減につながり、ただでさえコロナ禍で苦境に立たされている劇場にとってはさらなる痛手となる。ただ、事態が急速に好転するとは考えにくく、またマスクに対する拒否反応が強い英国では、政府による規制が再び敷かれない限り、劇場側が観客にマスク着用を求めるのにも限界がある。解放感に満ちた雰囲気の中で観劇することに及び腰になっている人たちはいるはずだ。数公演だけでも収容人数を減らす、またはマスク着用を必須にすることができれば、そうした人たちが観劇の喜びを取り戻せるだけでなく、劇場側にとっても得るものはあるのではないだろうか。(SM)
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-61061976

関連記事

ピックアップ記事

  1. REPORT 日本の水際対策 2020年2月から約3年、海外からの招聘公演やスタッフの来日に大…
  2. ロンドン南部のサザックにあるユニオン劇場 OUTLINE【2023.05.22】 …
  3. 2006年にロンドンで初演、オフ・ブロードウェイや東京でも上演された『トゥモロー・モーニング』が映画…
ページ上部へ戻る