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助成金カットに揺れるロンドンの劇場やシアター・カンパニー Part 2(LONDON)
- 2022/11/23
- OUTLINE/REPORT
ナショナル・ポートフォリオ組織(NPO)の立場を失ったイングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)の拠点、ロンドン・コロシアム
それでは、2023年~2026年のインベストメント・プログラムの詳細を見てみよう。同プログラムにおける3年間の助成金の総額を1年当たりの金額に換算すると、合計で4億4600万ポンド。うち、演劇関連組織への助成金は1億1190万ポンドで、全体の4分の1に当たる(ダンス関連組織への助成金は4691万ポンド)。また、ロンドンに拠点を置く組織に対する助成金額は、全体の3分の1を占めた(前回は39.5%)。
NPOとして認められた組織は、計950となった。うち、演劇関連組織は196(ダンス関連組織は75)。助成金額が増えた組織が212で現状維持が427、減った組織は51。そして141の組織がNPOの立場を失った。はたしてどの劇場やカンパニーが増額、現状維持、減額となったのだろうか。いくつか例を挙げてみる。
〇増額となった演劇関連組織
イングリッシュ・ツアリング・オペラ(English Touring Opera):年間355,079ポンド増
エクリプス・シアター・カンパニー(Eclipse Theatre Company):同309,382ポンド増
オープン・シアター・カンパニー(Open Theatre Company):同300,000ポンド増
など
イングリッシュ・ツアリング・オペラは、拠点をロンドン以外に移すことを検討するトランスファー・プログラム(Transfer Programme)のNPOである。トランスファー・プログラムでは、移転の意思のある組織にまずは2年間、助成金を支給。その間に組織は移転の可能性を探る。2024年10月31日までに移転した組織は、3年目の助成金を得るための別のプログラムに申請する機会を得る。
〇現状維持となった演劇関連組織
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(Royal Shakespeare Company):年間15,259,706ポンド
チチェスター・フェスティバル劇場(Chichester Festival Theatre):同1,772,234ポンド
など
〇減額となった演劇関連組織
ロイヤル・オペラ・ハウス(Royal Opera House):年間2,942,602ポンド減
サウスバンク・センター(Southbank Centre):同1,869,782ポンド減
ナショナル・シアター(National Theatre(NT)):同850,364ポンド減
など
コロナ禍で甚大な被害を被った劇場やシアター・カンパニーにとって、今後3年間の助成金が減るのは大きな打撃だろう。しかし、最も厳しい立場に立たされたのは、助成金が完全に打ち切られた組織だ。なかには質の高いプロダクションを生み出すことで定評のある劇場やカンパニーも多い。どのような組織がNPOでなくなったのか。
〇NPOの立場を失った演劇関連組織
イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)
ドンマー・ウェアハウス
ハムステッド劇場(Hampstead Theatre)
ゲート劇場(Gate Theatre)
ウォーターミル劇場(Watermill Theatre)
チーク・バイ・ジャウル(Cheek by Jowl)
など
ENOは、ロンドン中心部のトラファルガー広場から目と鼻の先にあるロンドン・コロシアム(London Coliseum)を拠点とするオペラ・カンパニーだ。ロンドンのオペラ・カンパニーと言えば、他にもロイヤル・オペラ(Royal Opera)があるが、ENOは英語上演を行うなど、住み分けができている。ENOに関しては、NPOとは別に、3年間で1700万ポンドの助成金を支給するとの提示がACEからあった。しかしそれは拠点をマンチェスターに移すことが必要であり、事前の協議なくACEが決めたものだったことが後に判明。発表後すぐにACEに決定を覆すように求める嘆願運動がオペラ歌手のブリン・ターフェル主導で始まった。また、11月9日にはENOがロイヤル・オペラ・ハウスなど複数のオペラ・カンパニーと共に、オペラにおける助成金カットについて話し合いを実施。ENOがミシェル・ドネラン文化相と緊急会談を行うことも決まっており、今後の行方が注目される。
ENOと並び、演劇関係者やファンの間で注目されたのがドンマー・ウェアハウス。ロンドン中心部のコベント・ガーデンに位置する客席数251の劇場で、古今東西の演劇やミュージカルを手掛けている。現在の芸術監督はマイケル・ロングハーストで、過去にはサム・メンデスやマイケル・グランデージらそうそうたる面々が同職を務めてきた。ウエストエンドにトランスファーするプロダクションも多く、助成金カットが英演劇界全体に影響を及ぼす可能性もある。同劇場はすぐにメーリング・リストの登録者宛てに状況を説明するメールを送付。ACEからの助成金が収入に占める割合は比較的低く、存続の危機に陥ることはないと明記し、既にスケジュールを組んでいる2022年~2024年のプロダクションは予定通り進めると述べた。しかしその一方で、2024年以降のためにACEに短期的な支援を求めているとし、登録者にはチケット購入や寄付を求めている。
基本的に3~4年毎に発表されるこの助成金プログラムはその都度、イングランド中の劇場やシアター・カンパニーの明暗を分けてきた。しかし今回は特に、コロナ禍による劇場閉鎖の大損害から立ち直るべくあがいている最中というタイミングでもあり、場合によっては死活問題となりかねない。今後、寄付を募ったり、クラウドファンディングや嘆願運動を行う組織が増えてくるだろう。こうした動きに注視しつつ、演劇ファンとして何ができるのかを考えたい。(SM)
*インベストメント・プログラムで助成を受ける組織にはNPOのほか、インベストメント・プリンシプルズ・サポート組織(Investment Principles Support Organisation(IPSO))もある。IPSOは他の組織や個人によるACEの戦略目標達成を支援する組織だが、今回はNPOについて述べる
参考文献
ACEの公式サイト
数字で見る2023年~2026年のNPO
文化・芸術分野における地域格差是正について
増額、減額になった劇場やシアター・カンパニー
NPOの立場を失った劇場やシアター・カンパニー
ENOと文化相の緊急会談