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「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」の重み (LONDON)
- 2022/2/18
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英国でオミクロン株の感染が急速に拡大した2021年末、ロンドン中の劇場が次から次へと公演中止の憂き目にあった。クリスマス直前には、ロンドンの商業劇場がメンバーとなっているソサエティ・オブ・ロンドン・シアター(Society of London Theatre)のフル・メンバーである46の劇場のうち、半数近い22の劇場が公演中止となっていたことからも、そのすさまじさがうかがえるだろう。
『マチルダ・ザ・ミュージカル(Matilda The Musical)』のように、ぎりぎりまで上演の道を模索するため、毎日決まった時間に当日の公演の有無を発表するプロダクションから、2022年2月初めまでの全公演を中止とした『アンドリュー・ロイド・ウェバーのシンデレラ(Andrew Lloyd Webber’s Cinderella)』まで、対応の違いこそあれ、すべての劇場が苦渋の選択を迫られた。
複数のキャストやスタッフが新型コロナウイルス陽性となりプレビューの数公演を中止した『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル(Moulin Rouge! The Musical)』は、アメリカからブロードウェイ版の役者を招くという、国をまたいだ大掛かりな方策を選択。『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』では、アンジョルラス役の本役と代役が共に出演できなかったために、ジャベール役のブラッドリー・ジェイデンが以前演じたことのあるアンジョルラス役を務め、ジャベール役は第1カバーであるリチャード・カーソンが担当するという公演があった。また、別の日には、かつてジャン・バルジャン役で名を馳せたジョン・オーウェン=ジョーンズが呼び出しに応じて急きょ劇場に駆けつけ、リハーサルなしで同役を熱演。まさにありとあらゆる手段を用いて「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」を体現していたわけだ。
2022年2月現在、ロンドンの劇場は大多数が公演を行っている。確かに年末年始と比べれば感染者数は抑えられており、規制緩和も影響してはいるだろうが、それは必ずしも各劇場がつつがなく公演を継続していることを意味してはいない。連日発表される代役の多さが、劇場側の懸命の努力によって公演が成り立っている事実を示している。
コロナ禍以前からロンドンのみならず、英各地の劇場の代役情報を発信しているツイッター・アカウント、WestEnd Understudies(@WestEndCovers) には毎日、数多くの代役情報がアップされている。これを見る限り、今現在、本役のみで上演が可能なプロダクションはごくわずかと言ってよいだろう。
元々、週数回の出演が決まっているオルタネート、通常はアンサンブルとして出演し、いざという時には主要な役を務めるアンダースタディ、そして複数の役柄を演じられるよう準備し、待機しているスウィングなど、一言で代役と言っても多様な条件、目的を持った役者たちがそれぞれ八面六臂の大活躍を見せているからこそ、公演が実現しているのだ。そして複数の代役を置く余裕のない中規模、小規模のプロダクションは、さらなる混乱のなか、一公演一公演を必死でこなしているだろうことは想像に難くない。
「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」。この言葉の重みを背負いながら、ロンドンに数多ある劇場が今日も幕を開けている。(SM)