- Home
- OUTLINE/REPORT
- 劇場閉鎖、そしてロックダウン(都市封鎖)へ 2020年3月23日(LONDON)
劇場閉鎖、そしてロックダウン(都市封鎖)へ 2020年3月23日(LONDON)
- 2021/3/30
- OUTLINE/REPORT
コロナ禍は世界の至るところで深刻な問題を引き起こしているが、一方で感染状況や政府の対策は国によって千差万別だ。それぞれの国や地域で市民がどのように感じ、暮らしているのかはなかなか実感しづらい。
ロンドンにおいて日常生活を送るうえで新型コロナウイルス危機を身にしみて感じるようになったのは、日本よりも後だった。英国で最初の感染者が確認されたのは、2020年1月31日。イングランド北部ヨークでのことだった。2月末には北アイルランドやウェールズを含む英各地でも感染が認められる。しかし、英国で一気に状況が悪化したのは3月だ。
国内初の死者が出たのが3月5日。同12日には英政府が新型コロナウイルス対策の段階を「封じ込め」から「遅延」へと移行した。英演劇界にも影響が出始め、アンドリュー・ロイド・ウェバーが8月に満を持して世に送り出すはずだった新作ミュージカル『シンデレラ』の開幕を10月に延期したのは3月5日のことである。このころには、公演の中止や延期を発表する劇場がある一方で、感染対策を強化したうえで公演を継続するところも。劇場で一般の観客に見える形で通常との違いが表れ始めたのも同じ時期だった。フォイエ(ホワイエ)に消毒液が置かれ、いつもならば遠慮会釈なく行われる咳が控えめに。そして扉に手を触れないようにしている観客の姿もみられた。ただし、会話や議論なしではいられない英国の人たちのこと、休憩中や終演後はバーやレストランに集って歓談。カーテンコールでは相変わらず盛大に歓声を上げていた。
そんな様子が3月中旬に一変する。3月16日にボリス・ジョンソン英首相が英国のすべての人々に対し、劇場やパブなど混雑する場所を避けるように勧告。同日、英国の劇場の大多数がメンバーとなっているSociety of London Theatre(SOLT)とUK Theatreが、ウエストエンドを含む英各地の劇場の閉鎖を告げた。同日の夜公演から適用されるということで、関係者はもちろん、観客たちも大混乱に陥ったことだろう。日本でも人気の高い俳優、ダニエル・ラドクリフとアラン・カミングが出演していたオールド・ヴィック劇場の『エンドゲーム』は前日の同15日に残りの全公演の中止を発表。トビー・ジョーンズやリチャード・アーミティッジなど映像分野でも活躍する俳優たちがそろったハロルド・ピンター劇場の『ワーニャ伯父さん』も閉鎖発表後に中止となり、鑑賞がかなわなかった日本の演劇ファンもいたようだ。同20日には英政府が公式に英国内のすべての劇場の閉鎖を命じた。
そして3月23日、英全土におけるロックダウン(都市封鎖)が宣言される。原則的に、生活必需品を購入するための買い物に加え、医療目的や1日1回のエクササイズのための外出以外は「stay at home」、家にいなければならない。市民にとってはほぼ自宅に閉じこもりきりという生活を送る日々が、劇場やシアター・カンパニーにとっては存続をかけた長い苦難の道が始まった。(SM)