劇場閉鎖後、演劇界とファンを支えたオンライン配信(LONDON)

OUTLINE【2020.03.16〜2020.12.31】

 

劇場閉鎖が始まった2020年3月以来、活動の場を失った演劇関係者と訪れる場を失ったファンたちを支えてきたのが、舞台のオンライン配信だ。国を問わず視聴可能なものが多いので、日本在住の演劇ファンにとってはこれまでになく多くの英国演劇に触れる機会になっているのではないだろうか。最初に始まったのは、既存の映像配信。大々的に人気のプロダクションを無料配信し、この波を牽引したのがナショナル・シアター(NT)だった。常日頃からナショナル・シアター・ライブの名の下でライブまたは録画映像を映画館で上映してきた同劇場だからこそ可能な選択肢の豊富さとクオリティの高さが際立った。「ナショナル・シアター・アット・ホーム(National Theatre at Home)」と銘打たれた同プロジェクトは4月2日から開始。ベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーが交互に怪物役とフランケンシュタイン博士役を演じた『フランケンシュタイン』や、ドンマー・ウェアハウスで上演されたトム・ヒドルストン出演『コリオレイナス』といった注目作と、ロンドンやアフリカ諸国の理容店を舞台にした『バーバー・ショップ・クロニクルズ(Barber Shop Chronicles)』などそれまで映画館で上映されたことのないアーカイブ・プロダクションを組み合わせた幅広いラインナップが話題を呼んだ。4カ月にわたって計16プロダクションが世界173カ国で視聴され、約1500万回の再生回数を記録したという。
また、商業劇場では大御所のアンドリュー・ロイド・ウェバーが気焔を上げた。自身が手掛けたミュージカル映像を無料配信する「ザ・ショーズ・マスト・ゴー・オン!(The Shows Must Go On!)」シリーズを立ち上げ、4月3日から『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』や『ジーザス・クライスト・スーパースター』といった人気ミュージカルの映像版などを次々と無料配信。また、英政府による新型コロナウイルス感染拡大防止対策のプロジェクトに参加する一方、自宅で愛猫と一緒にピアノをつま弾きながら人気ナンバーを歌う様子などを頻繁にSNSにアップして人々を和ませた。
ロックダウン(都市封鎖)が始まってしばらく経ったころには、俳優が自宅で行ったパフォーマンスをYouTubeチャンネルやZoom上などで配信するプロダクションも新たに制作されるようになった。ナショナル・シアター・オブ・スコットランドは有給で劇作家や演出家、俳優らを雇用し、55の小規模なデジタル演劇作品を制作。ツアー・カンパニーのオリジナル・シアター・カンパニーは、俳優たちが自宅においてグリーン・スクリーンの前で演技してiPhoneで撮影した映像に背景や音楽などを加える手法を用いて、スケールの大きなテーマを手掛けることに成功した。過去に舞台化した、第一次世界大戦の防空壕が舞台の『愛の記憶はさえずりとともに(Birdsong)』をオンライン用につくり直して7月に有料配信。また、10月にはアポロ13号のミッションを描く新作『アポロ13:ザ・ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン(Apollo 13 : The Dark Side of The Moon)』をリリースしている。ロンドンにある子ども向けの人形劇専門劇場、リトル・エンジェル・シアターは、ジョン・クラッセンのぼうしシリーズなど人気絵本を紙芝居風の素朴な人形劇に仕立て、好評を博するとともに劇場の知名度を上げた。
 無観客公演の生配信で勝負をかけたのが、ロンドンの老舗劇場オールド・ヴィックだ。「オールド・ヴィック:イン・カメラ(Old Vic: In Camera)」シリーズ第1弾には、2019年に同劇場で上演された『ラングス(Lungs)』のチームが再結集。同劇場の芸術監督、マシュー・ウォーチャス演出、Netflixドラマ『ザ・クラウン』のエリザベス女王夫妻コンビでお馴染みのマット・スミスとクレア・フォイ出演で、ソーシャル・ディスタンシング版を生配信した。その後もアンドリュー・スコットやマイケル・シーンら人気俳優によるプロダクションを相次いで制作。年末には同劇場で毎年恒例となっている『クリスマス・キャロル』も手掛けて、ファンらを喜ばせた。(SM)

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